インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎の違い|非外科的治療でできること・外科治療が必要なケース
Last Updated on 2 weeks ago by prebeau
「インプラントの歯ぐきから血が出ると言われた」
「インプラント周囲炎と言われたけれど、まだ手術は必要ないと言われた」
「周囲粘膜炎と周囲炎は何が違うの?」
インプラント周囲の炎症には、大きく分けて
インプラント周囲粘膜炎(peri-implant mucositis)
と
インプラント周囲炎(peri-implantitis)
があります。
名前は似ていますが、重要な違いがあります。
簡単に整理すると、
インプラント周囲粘膜炎
=主にインプラント周囲の軟組織に炎症がある状態
インプラント周囲炎
=炎症に加えて、インプラントを支える骨の進行性喪失を伴う状態
です。
特に大切なのは、
「血が出る=すぐ周囲炎」ではない
ことと、
「非外科的治療だけですべての周囲炎が治る」わけでもない
ことです。
PreBeau Oral Careでは、新しいインプラントの埋入手術は行わず、他院で埋入されたインプラントのメンテナンス・インプラント周囲疾患への非外科的ケアを中心に行っています。
この記事では、周囲粘膜炎と周囲炎の違い、非外科的治療で期待できること、外科的治療を検討すべきケースについて整理します。
インプラント周囲粘膜炎とは?
インプラント周囲粘膜炎は、インプラント周囲の軟組織に炎症がみられる状態です。
2017 World Workshopでは、インプラント周囲粘膜炎は、
- プロービング時出血
- 発赤
- 腫脹
- 排膿を伴うことがある
といった炎症所見を認める一方で、インプラント埋入後の初期的な骨リモデリングを超える病的な骨喪失を伴わない状態とされています。
Heitz-Mayfield & Salvi|Peri-implant mucositis
重要なのは、バイオフィルムの蓄積が大きく関与する炎症性疾患であることです。
つまり、インプラントそのものが悪くなったというより、
インプラント周囲の組織が、プラークやバイオフィルムに対して炎症反応を起こしている
と考えると分かりやすいでしょう。
インプラント周囲炎とは?
インプラント周囲炎は、単なる歯ぐきの炎症ではありません。
インプラント周囲に炎症があり、それに加えて、インプラントを支える骨の進行性の喪失を伴います。
診断では、
- プロービング時出血
- 排膿
- プロービングデプスの増加
- エックス線画像で確認される骨吸収
などを総合して評価します。
Schwarz et al.|Peri-implantitis
つまり、
「炎症があるか」だけでなく、「支持骨に変化があるか」
が大きな違いです。
周囲粘膜炎と周囲炎の違いを簡単に比較
| 項目 | インプラント周囲粘膜炎 | インプラント周囲炎 |
|---|---|---|
| 主な炎症部位 | 軟組織 | 軟組織+支持骨 |
| 出血 | みられることがある | みられることがある |
| 排膿 | みられる場合がある | みられる場合がある |
| 骨吸収 | 病的な進行性骨喪失は基本的にない | 進行性骨喪失を伴う |
| 非外科的治療 | 基本的な治療 | 初期治療として重要 |
| 外科治療 | 通常は第一選択ではない | 症例によって必要 |
この違いを理解すると、
「出血したからすぐ手術」
でも、
「とりあえずクリーニングだけしていれば大丈夫」
でもないことが分かります。
非外科的治療とは?
非外科的治療とは、歯ぐきを切開してインプラント表面を外科的に露出させるのではなく、歯ぐきの外側からインプラント周囲の炎症やバイオフィルムをコントロールする治療です。
一般的には、
- 口腔衛生指導
- プラーク・バイオフィルムの除去
- インプラント周囲の機械的デブライドメント
- 清掃しにくい補綴物の確認
- リスク因子の評価
- 継続的なメンテナンス
などを組み合わせます。
2025年のAO/AAPコンセンサスでは、インプラント周囲粘膜炎は非外科的デブライドメントとリスク因子のコントロールを中心に管理できるとされ、インプラント周囲炎に対しても非外科的治療は重要な最初のステップと位置付けられています。
AO/AAP consensus on prevention and management of peri-implant diseases
周囲粘膜炎なら非外科的治療で改善する?
多くの症例で臨床所見の改善が期待できます。
2025年のAAP/AOによるシステマティックレビュー・メタ解析では、インプラント周囲粘膜炎に対するデブライドメントにより、
- プロービングデプス
- プロービング時出血
の改善が認められています。
Treatment of Peri-implant Mucositis: An AAP/AO Systematic Review and Meta-analysis
ただし重要なのは、
「1回クリーニングすれば完全に治る」
という意味ではないことです。
同レビューでも、完全な疾患消失が必ず得られるわけではないことが示されています。
そのため、
- セルフケア
- 専門的清掃
- 被せ物の清掃性
- 喫煙などのリスク
- 定期的な再評価
を組み合わせて管理していく必要があります。
周囲炎でも、まず非外科的治療をする意味はある?
あります。
インプラント周囲炎の場合でも、非外科的治療は重要な第一段階です。
目的は、
- 炎症を減らす
- バイオフィルムを減らす
- 出血や排膿を改善する
- 清掃状態を整える
- 外科治療が必要かを再評価する
ことです。
2024年のレビューでも、インプラント周囲炎に対する非外科的治療は、完全な炎症消失には限界があるものの、外科治療前の重要な初期ステップとされています。
Non-surgical treatment of peri-implantitis
また、2023年のシステマティックレビュー・メタ解析では、非外科的治療によりプロービングデプスや出血が改善することはある一方で、完全な病変消失は予測しにくいと報告されています。
Clinical efficacy of adjunctive methods for the non-surgical treatment of peri-implantitis
つまり、
非外科的治療は「意味がない」のではなく、必要な第一段階
です。
ただし、
進行した周囲炎を非外科的治療だけで必ず治せるわけではない
という両方を理解することが大切です。
非外科的治療で確認したい「被せ物の形」
インプラント周囲炎を考えるとき、インプラント体だけを見ればよいわけではありません。
特に重要なのが、上部構造(被せ物)の清掃性です。
たとえば、
- 歯ぐきとの境目にフロスが入りにくい
- 歯間ブラシが通らない
- 被せ物が大きく張り出している
- 深い位置にセメントが残っている
- 患者さん自身では清掃できない
といった状態では、バイオフィルムを長期的にコントロールしにくくなる場合があります。
2025年のAO/AAPコンセンサスでも、不利な補綴形態などのprosthetic factorsは、インプラント周囲疾患に関係する局所因子として挙げられています。
PreBeau Oral Careでは、インプラント周囲組織だけでなく、
「この被せ物で本当に清掃できるのか」
という視点でも確認します。
必要に応じて、他院で埋入されたインプラントについても、使用されているインプラントシステムを確認したうえで、上部構造の再製作を検討します。
外科的治療が必要になるのはどんな場合?
ここは患者さん自身で判断する部分ではありません。
一般的には、
- 非外科的治療後も深いポケットが残る
- プロービング時出血や排膿が継続する
- 骨吸収が進行している
- インプラント表面にアクセスしにくい
- 骨欠損形態によって再生療法などを検討できる
- 非外科的処置だけでは十分なデブライドメントが困難
といった場合に、外科的治療が検討されることがあります。
外科治療には、
- フラップを開けてインプラント表面へアクセスする方法
- 切除的治療
- 骨再生を目的とする治療
- 軟組織への処置
などがあります。
2025年のAO/AAPコンセンサスでも、進行したインプラント周囲炎では症例に応じた外科的アプローチが必要になるとされています。
ただし、
骨吸収がある=必ずすぐ外科手術
という意味ではありません。
まず現在の状態、炎症、清掃性、骨欠損形態、インプラント位置などを評価して治療計画を決めます。
PreBeau Oral Careでは外科治療を行う?
PreBeau Oral Careでは、インプラント周囲炎に対する外科手術は行っていません。
当院が中心に行うのは、
- 他院インプラントの診査
- インプラント周囲粘膜炎の非外科的ケア
- インプラント周囲炎の初期非外科的治療
- バイオフィルムコントロール
- メンテナンス
- 被せ物・上部構造の清掃性評価
- 必要に応じた上部構造の再製作
です。
診査の結果、
外科的治療が必要と判断される場合には、適切な医療機関へ紹介します。
この診療範囲を明確にしたうえで、
「今あるインプラントを、非外科的にどこまで安定させられるか」
を考えるのがPreBeau Oral Careの役割です。
東京・赤坂|他院インプラントのメンテナンス・インプラント周囲炎の非外科的ケア
非外科的治療で使う方法は「特別な機械」だけで決まらない
インプラント周囲炎の治療では、
「レーザーがいい」
「エアフローがいい」
「薬剤を使えばいい」
など、特定の方法だけが強調されることがあります。
しかし、現在の研究では、
一つの補助療法だけで確実に周囲炎を治せるとは言えません。
2023年のシステマティックレビューでは、レーザーや局所抗菌薬などの補助療法について、非外科的デブライドメントに追加することで明確な臨床的上乗せ効果が確認できないものもありました。
Efficacy of adjunctive measures in the non-surgical treatment of peri-implantitis
そのため大切なのは、
機械や薬剤の名前よりも、
- バイオフィルムをどう管理するか
- 患者さん自身で清掃できるか
- 被せ物に問題がないか
- リスク因子を改善できるか
- 定期的に再評価するか
です。
PreBeau Oral Careでも、特定の機器だけを「周囲炎の治療法」と考えるのではなく、口腔内全体を評価しながら非外科的管理を行います。
インプラント周囲炎の「治った」はどう判断する?
見た目だけでは判断できません。
評価するポイントには、
- プロービング時出血の減少
- 排膿の有無
- プロービングデプス
- プラークコントロール
- 臨床症状
- 骨の変化
- 経時的な安定性
などがあります。
一時的に歯ぐきの腫れが引いたとしても、それだけで長期的に安定したとは限りません。
特にインプラント周囲炎では、
治療後の支持的メンテナンス(supportive peri-implant maintenance)
が重要です。
2025年のAO/AAPコンセンサスでも、長期的なインプラント周囲組織の安定には継続的メンテナンスが不可欠とされています。
症状がなくても周囲炎になることはある?
あります。
インプラント周囲炎は、
必ず痛みを伴うとは限りません。
患者さん自身では、
- 痛くない
- 噛めている
- グラグラしていない
と思っていても、
プロービングやエックス線検査で変化が見つかることがあります。
そのため、
症状があるときだけ歯科医院へ行くのではなく、定期的にインプラント周囲組織を確認する
ことが重要です。
出血・腫れ・膿・臭いなどの具体的なサインについては、インプラント周囲炎の初期症状とは?出血・腫れ・膿・臭い・骨吸収のサインも参考にしてください。
他院で入れたインプラントでも治療できる?
診査や非外科的メンテナンスは、他院で埋入されたインプラントでも対応できる場合があります。
特に、
- 引っ越した
- 埋入した医院が閉院した
- 担当医が退職した
- 海外でインプラント治療を受けた
などのケースがあります。
被せ物を外したり、上部構造を作り直したりする必要がある場合には、
- メーカー
- インプラントシステム
- サイズ
- 接続規格
などの情報が重要です。
詳しくは、他院で入れたインプラントのメンテナンスは受けられる?転院・違う歯医者で診てもらうときの注意点をご覧ください。
本記事の執筆・監修について
本記事を執筆・監修する毛利国安は、大阪大学歯学部卒業後、University of Michiganの歯周病学分野でポスドク研究員を経験し、UCLA ACT Surgical Implant Dentistry Residentとしてインプラント臨床研修を行っています。
また、インプラント周囲疾患を扱う専門書、
(Alberto Monje・Hom-Lay Wang編、クインテッセンス出版)の日本語版翻訳統括を担当しています。
この経歴を治療結果の保証として示すものではありませんが、インプラント周囲疾患に関する専門文献の日本語化・情報整理にも継続的に携わっています。
まとめ:周囲粘膜炎と周囲炎は「骨吸収の有無」が大きな違い
インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎は似ていますが、同じではありません。
大きく整理すると、
インプラント周囲粘膜炎
→ 軟組織の炎症が中心
→ 非外科的治療が基本
インプラント周囲炎
→ 炎症+支持骨の喪失
→ 非外科的治療を初期段階として行い、進行度によって外科的治療を検討
となります。
重要なのは、
「出血しているから重症」
でも、
「痛くないから大丈夫」
でもないことです。
現在の状態を正しく診断し、その段階に合った治療を選択する必要があります。
PreBeau Oral Careでは、新たなインプラント埋入や周囲炎の外科手術ではなく、すでに入っているインプラントを対象とした診査・非外科的ケア・継続的メンテナンスを行っています。
東京・赤坂|他院インプラントのメンテナンス・インプラント周囲炎の非外科的ケア
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- インプラントを長く維持するためのメンテナンスについて
- インプラントの被せ物の設計と固定方法について
参考文献
- Heitz-Mayfield LJA, Salvi GE. Peri-implant mucositis. Journal of Clinical Periodontology. 2018.
- Schwarz F, Derks J, Monje A, Wang HL. Peri-implantitis. Journal of Clinical Periodontology. 2018.
- Berglundh T, et al. Peri-implant diseases and conditions: Consensus report of workgroup 4 of the 2017 World Workshop. Journal of Periodontology. 2018.
- Avila-Ortiz G, et al. AO/AAP consensus on prevention and management of peri-implant diseases and conditions: Summary report. 2025.
- Treatment of Peri-implant Mucositis: An AAP/AO Systematic Review and Meta-analysis. 2025.
- Meyle J, Fischer-Wasels L. Non-surgical treatment of peri-implantitis. 2024.
- Current status and management of peri-implantitis: A systematic review. 2024.
- Clinical efficacy of adjunctive methods for the non-surgical treatment of peri-implantitis: a systematic review and meta-analysis. 2023.
- インプラント周囲炎を紐解く―診断・予防・管理のすべて|CiNii Books
執筆・監修:毛利 国安
歯科医師/PreBeau Oral Care 院長
UCLA ACT Surgical Implant Dentistry Resident修了・ICOI Fellow
※本記事は一般的な歯科医療情報の提供を目的としています。インプラント周囲粘膜炎・インプラント周囲炎の診断や治療方法は、炎症の程度、骨吸収、インプラント位置、上部構造、全身状態などによって異なります。外科的治療が必要な場合には、適切な医療機関での診断・治療が必要です。