毎日歯みがきしていても必要?バイオフィルムとプロフェッショナルケア
Last Updated on 2 weeks ago by prebeau
「毎日ちゃんと歯をみがいているのに、歯科医院でクリーニングする必要がありますか?」
これは予防歯科でよく聞かれる質問です。
結論から言えば、
毎日のセルフケアは予防の基本です。
しかし、それだけですべての人が口腔内を完全に管理できるとは限りません。
歯と歯の間。
奥歯。
歯ぐきとの境目。
歯並びが重なっているところ。
歯周ポケット。
口の中には、自分ではどうしても清掃しにくい場所があります。
そして、むし歯や歯周病を考えるときに重要なのが、単なる「食べかす」ではなく、**バイオフィルム(biofilm)**という考え方です。
この記事では、
「毎日歯みがきしているのに、なぜ歯科でメンテナンスを受けるのか?」
という疑問を、バイオフィルムの視点から解説します。
プラークは「食べかす」ではありません
歯の表面についている白っぽい汚れを、
「食べかす」
と思っている方もいます。
しかし、デンタルプラークの主成分は単なる食べかすではありません。
多数の微生物が集まって形成する構造化された集合体
です。
これをデンタルバイオフィルムと呼びます。
バイオフィルムの中では、細菌がばらばらに存在しているのではなく、互いに関係しながら複雑な微生物群集を形成しています。
EFPとEuropean Organisation for Caries Researchによるコンセンサスでも、デンタルバイオフィルムはむし歯と歯周病の発症に重要な役割を持つと整理されています。
つまり、予防歯科で重要なのは、
「汚れを取る」
というより、
「病気につながるバイオフィルムを適切に管理する」
という考え方なのです。
バイオフィルムはなぜ問題になるのでしょうか?
口腔内には、健康な状態でも非常に多くの微生物が存在しています。
ですから、
「細菌がいる=病気」
ではありません。
大切なのは、口腔内の環境と微生物のバランスです。
歯面にバイオフィルムが長期間残ると、その中の微生物環境が変化し、
- むし歯
- 歯肉炎
- 歯周炎
につながりやすい状態が形成される場合があります。
そのため予防の基本は、
バイオフィルムを定期的に乱し、除去すること
です。
歯みがきはバイオフィルムを壊すために行う
歯ブラシの目的は、
「食べかすを取る」
だけではありません。
むしろ重要なのは、歯面に付着したバイオフィルムを機械的に破壊・除去することです。
そのため、
「何回歯をみがいたか」
だけではなく、
「必要な場所に歯ブラシが届いているか」
が重要になります。
1日3回みがいていても、毎回同じ場所にバイオフィルムが残っていれば、その部分のリスクは残ります。
一方、回数だけにこだわらず、自分の口に合った方法で丁寧にバイオフィルムを除去できていることのほうが大切です。
歯ブラシだけでは届きにくい場所があります
代表的なのが歯と歯の間です。
一般的な歯ブラシだけでは、隣接面の細かい部分まで十分に届かないことがあります。
そこで、
- デンタルフロス
- 歯間ブラシ
などを使用します。
ただし、どちらが適切かは、
- 歯と歯の間の広さ
- 歯周病の状態
- 歯肉退縮
- 補綴物
- インプラント
- 歯並び
などによって異なります。
「全員が同じ道具を使えばよい」というものではありません。
奥歯もバイオフィルムが残りやすい場所
奥歯は鏡で見えにくく、歯ブラシも届きにくい場所です。
特に一番奥の歯の後ろ側は、みがき残しが起こりやすい部位です。
また、奥歯の噛む面には細かな溝があります。
そのため、
「歯みがきしているつもり」と「実際にバイオフィルムが取れている」は同じとは限りません。
歯科医院では、必要に応じて染め出しなどを使って、どこにバイオフィルムが残っているかを確認することもできます。
歯周ポケットの中は自分では管理しにくい
歯周病になると、歯と歯ぐきの間の溝が深くなり、歯周ポケットが形成されます。
浅い歯肉溝であればセルフケアで管理できる部分もありますが、深い歯周ポケットの内部まで通常の歯ブラシを届かせることは困難です。
さらに、
- 歯石
- 根面の複雑な形態
- 歯根分岐部
などがあると、自分だけで完全に管理するのは難しくなります。
そのため、歯周炎がある場合には、歯周状態に応じた専門的な処置が必要になります。
EFPのガイドラインでも、歯周治療は段階的に行われ、患者自身の口腔衛生管理に加えて、専門家による歯肉縁上および必要に応じた歯肉縁下の機械的処置が組み込まれています。
「歯石」と「バイオフィルム」は同じではありません
ここもよく混同されます。
バイオフィルム
は、主に微生物からなる柔らかい付着物です。
一方、**歯石(calculus / tartar)**は、プラークが石灰化して硬くなった沈着物です。
歯石になると、通常の歯ブラシでは除去できません。
さらに歯石の表面は粗造になりやすく、その上に新たなバイオフィルムが付着しやすくなります。
そのため歯科医院では、必要に応じて専門器具を使用して歯石を除去します。
「歯石を全部取れば歯周病は治る」わけでもありません
逆に、
「歯周病治療=歯石取り」
と考えるのも少し単純です。
歯周病で重要なのは、
歯石そのものだけではなく、細菌性バイオフィルムと、それに対する宿主の炎症反応
です。
そのため、
- バイオフィルムコントロール
- 歯石除去
- 歯周ポケットの管理
- セルフケア改善
- 喫煙などのリスク因子管理
- 糖尿病など全身状態への配慮
を総合的に考える必要があります。
→ 歯周病はなぜ全身と関係する?「慢性炎症」を生理学から考える
プロフェッショナルケアとは?
歯科医院で行うプロフェッショナルケアは、単に「歯をツルツルにする美容的なクリーニング」だけではありません。
口腔状態に応じて、
- バイオフィルムの確認・除去
- 歯石除去
- 歯周ポケットの評価
- 歯肉出血の確認
- セルフケアの確認
- フロス・歯間ブラシの選択
- 必要に応じた歯面研磨
- むし歯・歯周病のチェック
などを行います。
つまり、
プロフェッショナルケア=「自分では管理しにくい部分を補う」+「口腔状態を評価する」
ものです。
「クリーニング」と「歯周病治療」は同じではありません
ここも重要です。
健康な歯周組織を維持するためのクリーニングと、すでに歯周炎が進行している方に必要な歯周病治療は同じではありません。
たとえば歯周ポケットが深く、歯根面に歯石やバイオフィルムが存在する場合には、単純な表面クリーニングでは十分でないことがあります。
EFPの歯周病治療ガイドラインでは、
Step 1:患者自身のバイオフィルムコントロール・リスク因子管理
Step 2:歯肉縁下の専門的な機械的処置
Step 3:必要に応じた追加治療
Step 4:サポーティブペリオドンタルケア
という段階的な考え方が示されています。
つまり、
まず診断して、その人に必要なケアを選ぶ
ことが重要なのです。
プロフェッショナルケアを受ければ歯みがきしなくていい?
もちろん、そうではありません。
むしろ逆です。
歯科医院でバイオフィルムを除去しても、口腔内では時間とともに再びバイオフィルムが形成されます。
そのため、
歯科医院だけできれいにする
という方法では長期的な予防は成立しません。
基本は毎日のセルフケアです。
そこへプロフェッショナルケアを組み合わせます。
セルフケアとプロフェッショナルケアは、どちらか一方ではなく両方が重要
なのです。
Guided Biofilm Therapy(GBT)とは?
近年、バイオフィルムを中心に考えたプロフェッショナルケアの方法として、**Guided Biofilm Therapy(GBT)**という考え方もあります。
GBTでは、バイオフィルムを染め出して見えるようにし、その付着部位を確認しながら、
- セルフケア指導
- パウダーによるバイオフィルム除去
- 必要な部位の歯石除去
- 再評価
などを組み合わせます。
ポイントは、
「とにかく歯石を削る」ことから始めるのではなく、まずバイオフィルムを可視化して、必要なところを選択的にケアする
という考え方です。
ただし、GBTという名称そのものが、すべての患者さんに必須という意味ではありません。
歯周病の程度や歯石の量、インプラント、補綴物などによって必要な処置は異なります。
パウダークリーニングとは?
プロフェッショナルケアでは、細かなパウダーと水・空気を利用して歯面のバイオフィルムや着色を除去する方法があります。
使用するパウダーや機器によって特徴は異なります。
従来の研磨ペーストによるポリッシングだけでなく、こうした方法を適切に使用することで、効率的にバイオフィルムを除去できる場合があります。
ただし、
パウダーを当てればどんな歯周病でも治る
というものではありません。
深い歯周ポケットや歯石が存在する場合には、必要に応じて別の歯周処置を組み合わせる必要があります。
「削らない予防」という考え方
むし歯や歯周病が進行すれば、
- 歯を削る
- 根管治療をする
- 歯周外科を行う
- 歯を抜く
など、大きな治療が必要になることがあります。
しかし、一度失われた天然歯質や歯周組織を完全に元通りにすることは簡単ではありません。
だからこそ、
病気になってから大きな治療をするより、できるだけ病気を起こしにくい状態を維持する
という考え方が重要です。
これが、PreBeau Oral Careが大切にしている「できるだけ削らない」ための予防にもつながっています。
「毎日みがいているから大丈夫」ではなく「状態を確認する」
歯みがきを毎日続けていることは、とても良いことです。
しかし、
歯みがきをしているか
と、
口腔内が実際に良い状態に保たれているか
は別の問題です。
たとえば、
- バイオフィルムが残っていないか
- 歯肉から出血していないか
- 歯周ポケットが深くなっていないか
- 歯石がついていないか
- 新しいむし歯ができていないか
は、自分だけでは分からないことがあります。
そのため歯科メンテナンスでは、
「きれいにすること」+「状態を確認すること」
の両方が重要になります。
痛みがなくてもチェックする理由
歯周病は、強い痛みがないまま進行することがあります。
つまり、
「歯みがきできている」
「痛くない」
だけでは、歯周組織が健康だとは判断できません。
→ 「痛くないから大丈夫」は本当?歯周病が静かに進行する理由
症状が出る前から状態を確認することが、予防・メンテナンスの大きな意味です。
メンテナンスの頻度は全員同じではありません
「クリーニングは3か月に1回ですか?」
という質問もよくあります。
しかし、全員に同じ間隔が適しているわけではありません。
EFPの歯周病治療ガイドラインでも、歯周病治療後のサポーティブペリオドンタルケアは、患者ごとのリスクや歯周状態に応じて間隔を調整することが推奨されています。
歯周病治療後の患者では3〜12か月の範囲を目安として個別化する考え方が示されていますが、これは「全員3か月」という意味ではありません。
実際には、
- 歯周病歴
- 出血
- 歯周ポケット
- むし歯リスク
- バイオフィルム
- 喫煙
- 糖尿病
- セルフケア能力
- インプラントや補綴物
などを考慮します。
「定期的にクリーニングしていれば絶対にむし歯や歯周病にならない」わけではありません
予防歯科についても、過度な期待は禁物です。
どれだけメンテナンスをしていても、
むし歯や歯周病を100%防げるわけではありません。
病気のリスクには、
- 遺伝的要因
- 唾液
- 食生活
- 喫煙
- 糖尿病
- 加齢
- セルフケア
など多くの要素が関係します。
予防歯科の目的は、
「絶対に病気にならない」ことを保証することではなく、リスクをできるだけ下げ、問題を早期に発見し、自分の歯を長く維持すること
です。
PreBeau Oral Careの予防・メンテナンス
PreBeau Oral Careでは、
「汚れたから掃除する」
というだけではなく、
「なぜそこにバイオフィルムが残るのか」
を考えることを大切にしています。
歯並び。
歯ブラシの当て方。
歯間部。
歯周ポケット。
補綴物。
インプラント。
生活習慣。
口腔環境は一人ひとり異なります。
そのため、
状態を確認する
↓
バイオフィルムを可視化する
↓
必要な部分をプロフェッショナルケア
↓
自宅で管理しやすい方法を考える
↓
再評価する
という流れを大切にしています。
PreBeau Oral Careでは、バイオフィルムを重視したGBT(Guided Biofilm Therapy)を用いた予防・クリーニングにも対応しています。
詳しいメンテナンス内容はこちらをご覧ください。
→ 赤坂で予防歯科・GBTクリーニング・歯のメンテナンス|PreBeau Oral Care
まとめ|「自分でみがく」と「プロに任せる」は役割が違います
毎日の歯みがきは、口腔健康を守る基本です。
しかし、口の中には自分では管理しにくい場所があります。
そしてプラークは単なる食べかすではなく、
微生物が形成するバイオフィルム
です。
そのため、
セルフケア
+
必要に応じたプロフェッショナルケア
+
定期的な口腔状態の評価
という組み合わせが重要になります。
プロフェッショナルケアの目的は、
「歯を白く、ツルツルにすること」
だけではありません。
どこにバイオフィルムが残っているのか。
歯ぐきに炎症はないか。
歯周病が静かに進んでいないか。
セルフケアをどう改善できるか。
それを確認しながら、口腔環境を継続的に管理することです。
悪くなったら治す。
だけではなく、
できるだけ悪くならない状態を維持する。
それが、PreBeau Oral Careが考える予防・メンテナンスです。
よくある質問
Q. 毎日歯みがきをしていてもクリーニングは必要ですか?
必要性や頻度は一人ひとり異なります。歯みがきだけでは管理しにくい歯間部、歯周ポケット、歯石などがある場合には、プロフェッショナルケアが必要になることがあります。
Q. バイオフィルムと歯石は同じものですか?
同じではありません。デンタルバイオフィルムは微生物を中心とした構造化された付着物です。歯石はプラークが石灰化して硬くなったもので、通常の歯ブラシでは除去できません。
Q. GBTとは何ですか?
Guided Biofilm Therapyの略で、バイオフィルムを染め出して可視化し、セルフケア指導やパウダーなどを利用したバイオフィルム除去、必要に応じた歯石除去などを組み合わせる予防・メンテナンスの考え方です。
Q. クリーニングは3か月ごとに受けるべきですか?
全員が3か月ごとに受ける必要があるわけではありません。歯周病歴、歯周ポケット、出血、むし歯リスク、セルフケアなどを評価して、適切な間隔を個別に決めます。
Q. 歯科でクリーニングを受けていれば、自宅では軽く磨くだけで大丈夫ですか?
いいえ。プロフェッショナルケアを受けてもバイオフィルムは再形成されます。毎日のセルフケアが基本であり、歯科医院でのケアはそれを補完するものです。
参考文献・情報源
- Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I–III periodontitis — The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020.
https://www.efp.org/education/continuing-education/clinical-guidelines/guideline-on-treatment-of-stage-i-iii-periodontitis/ - Sanz M, Bäumer A, Buduneli N, et al. Effect of professional mechanical plaque removal on secondary prevention of periodontitis and the complications of gingival and periodontal preventive measures. J Clin Periodontol. 2015;42 Suppl 16:S214-S220.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25626357/ - European Federation of Periodontology. Role of microbial biofilms in the maintenance of oral health and development of dental caries and periodontal diseases.
https://www.efp.org/for-patients/gum-disease-general-health/perio-caries/overview/working-groups/working-group-1/ - European Federation of Periodontology. Gum disease: Treatment.
https://www.efp.org/for-patients/gum-diseases/gum-disease-treatment/
※本記事は、バイオフィルム、歯周病予防、プロフェッショナルケアについての一般的な歯科情報を提供することを目的としています。必要なケアやメンテナンス頻度は口腔状態によって異なるため、実際の診断・治療については歯科医師にご相談ください。
執筆・監修:歯科医師 毛利国安
PreBeau Oral Care