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歯周病はなぜ全身と関係する?「慢性炎症」を生理学から考える

Last Updated on 2 weeks ago by prebeau

「歯周病は全身の健康にも関係する」

最近、このような話を耳にすることが増えてきました。

では、なぜ歯ぐきの病気が、口から離れた場所にある心臓や血管、糖代謝などと関連するのでしょうか。

その仕組みを考えるとき、重要なキーワードの一つが**「慢性炎症(chronic inflammation)」**です。

歯周病は単に「歯ぐきに細菌がいる病気」ではありません。

口腔内の細菌、それに対する免疫反応、炎症、生活習慣や全身状態など、さまざまな要因が関係する慢性炎症性疾患です。

この記事では、歯周病と全身との関係について、生理学・免疫・炎症という視点からできるだけわかりやすく解説します。

なお、最初に大切なことをお伝えしておきます。

「歯周病とある病気に関連がある」ということと、「歯周病がその病気を直接引き起こす」ということは同じではありません。

現在わかっていることと、まだ研究が続いていることを区別しながら見ていきましょう。


そもそも「炎症」とは何でしょうか?

炎症という言葉には、

「腫れる」

「赤くなる」

「痛くなる」

といった悪いイメージがあるかもしれません。

しかし、本来の炎症は体に必要な反応です。

細菌などの微生物が侵入したり、組織が傷ついたりすると、私たちの免疫系はそれを察知します。

そして免疫細胞やさまざまな生理活性物質が働き、原因を排除し、傷ついた組織を修復しようとします。

つまり炎症は、私たちの体を守るための生体防御反応でもあるのです。

問題は、その炎症が長期間続いてしまう場合です。


「急性炎症」と「慢性炎症」は少し違います

たとえば、皮膚を傷つけたとします。

傷の周囲が赤くなったり、少し腫れたりします。

これは炎症反応の一つです。

原因が取り除かれ、組織が修復されれば、通常は炎症も収束していきます。

一方、原因となる刺激が長期間存在したり、炎症反応が適切に収束しなかったりすると、炎症が持続することがあります。

これが慢性炎症です。

慢性炎症では、体を守るために始まったはずの免疫反応が長く続くことで、結果的に自分自身の組織にも影響を及ぼすことがあります。

歯周病を理解するうえで、この考え方はとても重要です。


歯周病は「細菌だけ」の病気ではありません

歯周病の始まりには、歯と歯ぐきの周囲に形成される**細菌性バイオフィルム(デンタルプラーク)**が深く関係しています。

しかし、

「細菌が歯ぐきを直接壊している」

とだけ考えると、歯周病の本質を十分には説明できません。

実際には、

口腔内細菌

それを認識する免疫系

炎症反応

炎症が長期化

歯周組織の破壊

というように、細菌と宿主である私たち自身の免疫反応との相互作用によって病気が進行します。

歯周炎では、歯肉だけでなく、歯根膜や歯槽骨など歯を支えている組織にも炎症の影響が及びます。

その結果、歯周ポケットが深くなったり、歯を支える骨が失われたりし、進行すると歯が動いたり、最終的には歯を失ったりすることがあります。


「免疫反応が強ければ強いほど良い」わけではありません

ここは生理学的に考えると、とても興味深いところです。

免疫系は細菌から体を守るために必要です。

しかし、生体反応には「バランス」があります。

炎症反応が不足すれば、感染に十分対応できない可能性があります。

反対に、炎症反応が過剰になったり長期間持続したりすれば、自分自身の組織にもダメージが及ぶ可能性があります。

歯周病では、

  • 好中球
  • マクロファージ
  • T細胞
  • B細胞

などさまざまな免疫細胞が関与します。

さらに、

  • IL-1β(インターロイキン1β)
  • IL-6(インターロイキン6)
  • TNF-α(腫瘍壊死因子α)

などの炎症に関係する物質も複雑に関わります。

これらはすべて「悪い物質」というわけではありません。

本来は免疫反応を調節するために必要なものです。

しかし、慢性的な炎症環境では、こうした反応が長期間続くことになります。


では、口の炎症はどうして「全身」と関係するのでしょうか?

ここからが重要です。

歯周病と全身との関連を説明するメカニズムとして、現在いくつかの経路が研究されています。

1.炎症に関連する物質

歯周組織で炎症が続くと、さまざまな炎症性メディエーターが産生されます。

こうした局所の炎症と、血液中の炎症マーカーとの関係が研究されています。

たとえば歯周炎患者では、CRP(C反応性タンパク)などの全身性炎症に関連する指標が上昇することがあり、歯周治療後に一部の炎症指標が改善するという研究もあります。

ただし、

「歯ぐきの炎症物質がそのまま全身疾患を起こす」

という単純な仕組みではありません。

全身の炎症状態には、肥満、喫煙、糖尿病、運動、食生活、加齢など、非常に多くの要因が関係します。


2.細菌や細菌由来成分

炎症を起こしている歯周ポケットでは、歯肉のバリア機能が損なわれていることがあります。

そのため、日常的な咀嚼やブラッシングなどをきっかけとして、口腔内細菌やその構成成分が一時的に血流へ入る可能性があります。

この現象自体は歯周病だけに特有というわけではありません。

しかし、歯周組織の炎症が強い場合には、このような経路が全身との関連を説明する一つの候補として研究されています。


3.免疫系を介した影響

さらに興味深いのが、免疫系そのものです。

私たちの体は、口・腸・皮膚・血管などを完全に独立したシステムとして管理しているわけではありません。

免疫細胞やサイトカインなどを介して、さまざまな組織が影響し合っています。

そのため研究では、

口腔内の慢性的な炎症が、全身の炎症状態にどの程度影響するのか

という視点からも検討が進められています。


「低度の全身性炎症」という考え方

近年の医学では、**low-grade systemic inflammation(低度の全身性炎症)**という考え方が注目されています。

これは急性感染症のような激しい炎症とは異なり、比較的弱い炎症状態が長期間続くという考え方です。

肥満、代謝異常、加齢など、さまざまな状態との関連が研究されています。

そして歯周病についても、

慢性的な歯周組織の炎症が、全身の低度炎症状態に寄与する可能性があるのではないか

という研究が行われています。

ただし、ここでも注意が必要です。

全身性炎症には非常に多くの要因が関係するため、歯周病だけを原因として説明することはできません。


歯周病と糖尿病では「双方向」が重要

歯周病と全身疾患の関係を理解するうえで、とても分かりやすい例が糖尿病です。

糖尿病、とくに血糖コントロールが不十分な状態では、炎症反応や免疫機能、組織修復などに影響し、歯周病が悪化しやすくなることが知られています。

一方、歯周病に伴う慢性的な炎症が、インスリン抵抗性や血糖コントロールに影響する可能性も研究されています。

つまり、

全身 → 口

だけではなく、

口 → 全身

という方向も含めた「双方向性」が重要になります。

詳しくはこちらの記事で解説します。

歯周病と糖尿病はなぜ関係する?知っておきたい「双方向」の関係


心臓・血管との関係でも「炎症」がキーワード

歯周病と心血管疾患との関連についても、多くの研究があります。

歯周病患者では心血管疾患のリスクが高いという疫学的な関連が報告されています。

その背景として研究されているのが、

  • 全身性炎症
  • 血管内皮機能
  • 酸化ストレス
  • 菌血症
  • 共通する生活習慣・リスク因子

などです。

ただし、

歯周病を治療すれば心筋梗塞や脳卒中を予防できる

とまで断定できるわけではありません。

「関連があること」と「治療によって疾患発症を予防できること」は別の科学的問いだからです。

詳しくはこちらで解説します。

歯周病と心臓・血管の健康|口の炎症は心血管疾患と関係する?


呼吸器との関係は少し異なる経路も考えられます

口腔と全身の関係は、すべてが「血液中の炎症」で説明されるわけではありません。

呼吸器の場合には、**誤嚥(aspiration)**という別の経路も重要です。

特に高齢者や嚥下機能が低下した方では、唾液や口腔内細菌が気道へ入り込むことがあります。

そのため、口腔衛生状態と肺炎などの呼吸器疾患との関連についても研究されています。

歯周病と呼吸器の健康|口腔内細菌と肺の意外な関係


では、歯周病を治せば全身が健康になるのでしょうか?

ここは最も誤解してほしくないところです。

歯周病治療によって、

  • 歯肉の炎症を改善する
  • 歯周病の進行を抑える
  • 歯を失うリスクを減らす
  • 口腔機能を維持する

ことは、歯科医療として非常に重要です。

また、歯周治療によってCRPなど一部の全身性炎症指標が改善する可能性も報告されています。

しかし、

「歯周病を治療すれば、心臓病・糖尿病・認知症などを防げる」

と一括りに結論づけることはできません。

疾患によってエビデンスの強さが異なりますし、年齢、遺伝、喫煙、運動、食生活、肥満、社会環境など多くの要因が関係するからです。

科学では、

関連(association)

因果関係(causation)

を区別することが非常に重要です。


生理学から考えると「口だけを見る」ことは難しい

私が歯科医師になる前に学んだ分野の一つが**生理学(Physiology)**です。

生理学では、人体を単なる臓器の集合としてではなく、

  • 神経系
  • 循環
  • 免疫
  • 内分泌
  • 代謝
  • 呼吸
  • 消化

などが相互に調節し合うシステムとして考えます。

歯科医師になって口腔を診るようになってからも、この考え方は変わりません。

歯ぐきも血流があります。

免疫反応があります。

細菌との相互作用があります。

そして炎症が起こります。

つまり、口腔だけが体から独立して存在しているわけではありません。

だからこそ私は、歯周病を単なる「歯ぐきの病気」としてではなく、体の一部に起きている慢性炎症として理解することが大切だと考えています。


だからこそ「痛くなる前」の管理が重要です

歯周病の難しいところは、慢性的に進行していても強い痛みを感じない場合があることです。

出血や口臭などがあっても、

「痛くないから大丈夫」

と思ってしまうことがあります。

しかし、炎症が長期間続けば、知らないうちに歯を支える組織が失われている可能性があります。

「痛くないから大丈夫」は本当?歯周病が静かに進行する理由

だからPreBeau Oral Careでは、

悪くなったところを繰り返し治療することだけではなく、できるだけ病気を進行させない口腔環境を維持すること

を大切にしています。

毎日のセルフケアと、必要に応じた歯科医院でのプロフェッショナルケアを組み合わせ、口腔内のバイオフィルムや炎症を継続的に管理していく。

それが予防・メンテナンスの基本です。

赤坂で予防歯科・歯のクリーニング|PreBeau Oral Careのメンテナンス


まとめ|口腔も「体の一部」として考える

歯周病と全身の関係を考えるとき、大切なのは、

「歯周病がすべての全身疾患の原因になる」

と考えることではありません。

歯周病は、細菌性バイオフィルムと宿主の免疫・炎症反応が関係する慢性炎症性疾患です。

そして、

局所の慢性炎症

細菌・細菌由来成分
炎症性メディエーター
免疫反応

全身性炎症との関連

という複数の経路が研究されています。

人体は、口・心臓・血管・肺・脳などが完全に独立して存在しているわけではありません。

だからこそ、

「歯が痛くなったら歯医者へ行く」だけではなく、口腔を体の一部として健康な状態に維持する。

それが、これからの予防歯科にとって大切な考え方の一つだとPreBeau Oral Careでは考えています。


よくある質問

Q. 歯周病は全身に炎症を起こすのですか?

歯周病では歯周組織に慢性的な炎症が起こります。研究では、歯周病とCRPなどの全身性炎症マーカーとの関連も報告されています。ただし、全身の炎症状態には肥満、喫煙、糖尿病、加齢など多くの要因が関係するため、歯周病だけが原因とはいえません。

Q. 歯周病菌は血液の中に入ることがありますか?

歯周組織に炎症がある場合、咀嚼やブラッシングなどに伴って一過性の菌血症が生じることがあります。ただし、これは歯周病だけに特有の現象ではありません。歯周病と全身疾患との関連を説明する可能性のある経路の一つとして研究されています。

Q. 歯周病を治療すると全身の炎症も下がりますか?

歯周治療後にCRPなど一部の全身性炎症マーカーが低下したという研究があります。ただし、それが特定の全身疾患の発症予防に直接つながるかどうかは別に評価する必要があります。

Q. 痛みがなければ歯周病ではありませんか?

いいえ。歯周病は初期から中等度では強い痛みがないこともあります。出血、歯周ポケット、歯槽骨の状態などを歯科医院で確認することが重要です。


参考文献・情報源

※本記事は、歯周病と全身の健康に関する一般的な医学・歯学情報の提供を目的としています。全身疾患の診断・治療については医師に、歯周病・口腔状態については歯科医師にご相談ください。

執筆・監修:歯科医師 毛利国安
PreBeau Oral Care